イタリア・ピエモンテの作り手に学ぶ、食文化の本質。

 2018年2月―イタリア・ピエモンテ州から“食の作り手たち”が札幌を訪れた。この日、“郷土料理の再構築”をテ...続きを読む

 2018年2月―イタリア・ピエモンテ州から“食の作り手たち”が札幌を訪れた。この日、“郷土料理の再構築”をテーマにした前衛的なイタリア料理を提供する「テアトロ ディ マッサ」では、ピエモンテと北海道の食材を使った料理を味わいながら、イタリアの食文化を学ぶ会を開催。道内の農業生産者や企業が集い、お互いの食文化について意見を交換した。

 日本人にとって身近なイタリアン。だが私たちは、そこで生産される食材について、ほとんど知らない。今回は5人の食の作り手たちから語られる想いとともに、食文化の“一段深い場所”に足を踏み入れてみたい。

イタリアを代表する食の町・ピエモンテ

イタリア北西部に位置するピエモンテ州の中で、私たち日本人に馴染みがあるとすれば、2006年に冬期オリンピックの開催地となった「トリノ」だろうか。食に精通している人ならスローフード発祥の地「ブラ」が思い浮かぶだろうし、何と言ってもこの地域には、世界遺産に登録された「ランゲ・ロエロ」のブドウ畑がある。

マリオ、エマヌエーレ、ジュリアーノ、カルロ、ロレンツォの5人は、そんなイタリアを代表する“食の町”で代々、ワインやトリュフ、ヘーゼルナッツ、グラッパを生産してきた。そして、彼らをアテンドする富松恒臣さんは、同州アルバに在住しながら、日本人で唯一“アルバのトリュフとワインの騎士”の称号を与えられ、トリュフ商として活躍している。

イタリア各地のリストランテで経験を積んだ新田裕也シェフから提供されたのは、ピエモンテの郷土料理を主体としたクラシックなメニューの数々。ウサギ肉を使った一品や、牛肉のボッリートミスト(茹で肉料理)はまさに現地の定番で、そこに北海道のエッセンスが加わっている。

    

 料理をより一層引き立てるのは、ジュリアーノさん(ワイナリー「Mustela」)とカルロさん(ワイナリー「Deltetto」)が作るワインたちだ。バルバレスコ地域にあるジュリアーノさんのワイナリーからは、ランゲ・シャルドネ(白)とバルベーラ(赤)。ロエロ地域にあるカルロさんのワイナリーからは、ロエロ・アルネイス(白)、バルベーラ・ダルバ(赤)、ロエロ・ロッソ(赤)がチョイスされた。

 ワインの原材料であるブドウは、土壌性質によって品質や旨味が変わる非常に繊細な植物で、畑が違えば栽培できる品種も異なる。もちろん、天候が生育や品質に与える影響も大きい。1品種のブドウ100%で作るワインもあるが、例えばソービニヨンブラン、シャルドネ、ピノノワールなどの品種をミックスして製造するワインもある。フレッシュさを際立たせたいのか、ミネラル感を引き出したいのか、エレガントさを演出したいのかー。その年々によって微妙に変化するブドウの性質を理解した上で、ワインの個性を引き出し、まとめる技術は、彼らが長年積み重ねてきた技術の賜物にほかならない。

限りある資源と食文化を、未来につなぐ

 世界三大珍味の一つトリュフは、世界に100種類ほど存在する。実際に食べることができるのは30種類程度で、その中でも白トリュフは香りが抜群に良く、1kg100万円以上で取り引きされることもあるという。ピエモンテのアルバ地域は、そんな白トリュフの一大産地だ。

 マリオさんは白トリュフハンター協会の会長を務め、自らも30年近くトリュフを取り続けてきた。イタリアでは州ごとにトリュフを採る資格が必要で、採集には様々なルールがある。種類ごとに採集時期を厳格に定めるほか、未熟なトリュフを採集したり、土を掘りすぎて木にダメージを与えることは禁止されている。特に白トリュフは人工的に栽培できないため、トリュフが自生する山の掃除や間伐など、環境を適切に管理しなければならない。マリオさんをはじめ“確かなトリュフハンター”たちは、未来に永くトリュフと食文化をつないでいくために活動している。

 また、ピエモンテの特産物といえばヘーゼルナッツの存在を忘れてはならないだろう。エマヌエーレさんが栽培を手掛けるヘーゼルナッツと加工製品は、EUの地理表示保護「IGP」の認定を受けていることからも、その品質の高さが伺える。IGPとは、イタリア、そしてヨーロッパの国々が品質を認めた証だ。「特定地域で栽培・飼育・収穫された農産物が加工を経て製品となる際に、少なくともひとつの工程がその特定地域で行われたことを示す※1」もので、認定を受けるためには生産地域、生産国、EUそれぞれの審査に合格する必要がある(認定後も品質基準の遵守が求められる)。

 

 ピエモンテのヘーゼルナッツは芳醇な香りと良質なオイルを持つのが特長だが、驚いたのはクリームなどに加工したとき、香りがさらに引き立つということ。デザートに利用されるイメージが強いヘーゼルナッツだが、もちろん料理にも活用できる。この香りを、どんな食材とマッチングさせるか。日本とイタリアの食文化が融合した、新たな一皿が生まれることに期待したい。

   

※1 資料提供:イタリア大使館貿易促進部

新進気鋭の食の作り手

一方で、日本人には馴染みが少ないかもしれないが、ピエモンテにはグラッパという蒸留酒がある。「ブドウの搾りかすを使うため、世界レベルで蒸留酒について話す時にはグラッパはいつも馬鹿にされます。しかし、ブドウの皮にこそ価値があるのです」と、作り手のロレンツォさんは語る。実際に、ワインの香りの90%近くがブドウの皮に秘められており、グラッパもまた、品種や畑の違いによって個性が備わるそうだ。またグラッパは、蒸留と熟成の工程によって口当たりや、アロマなどのユニークさが生まれる。これらの違いにいち早く着目したのがロレンツォさんの蒸留所で、イタリアで最初にブドウ品種ごとのグラッパ製造を開始。卓越した蒸留技術で、高品質のグラッパを作り続けている。

土地と共に、人も食も在り続ける。

「私たちはただワインを作っているだけではなく、その土地の個性や歴史、親から受け継いできたものをワインの中に注いできました。だから、自分たちの土地を離れることはできないですね」。

 参加者からの「北海道でワインを作ろうとは思わないか?」という質問に対してカルロさんが語った一言に、彼らの「土地に対する想い」が集約されているように感じられた。そして、よどむことのない言葉に、自身が手掛ける製品や自国の食文化への「誇り」を見た。

 私たちは食文化の本質に、どれだけ目を向けているだろうか。そして、自分たちの食文化を彼らと同じように語れるだろうか。イタリアからやってきた5人と架け橋になってくれた日本人との時間が、私たちの足下を今一度、見直すきっかけを与えてくれた気がする。

■info:ミシュランガイド北海道2017( http://gmhokkaido.gnavi.co.jp/home/ )

■info:teatro di massa ( http://www.teatrodimassa.com/ )

北海道札幌市中央区南3条西8丁目7 大洋ビル 2F

■writer:michiru hasegawa