医療から食への見解シリーズ その1

匠の手を持つ脳神経外科医からみた「食」
その常識、考え直してみませんか

2015年11月に札幌市東区に新築移転した社会医療法人禎心会病院。2012年には24時間救急受け入れ体制を持つ...続きを読む

201511月に札幌市東区に新築移転した社会医療法人禎心会病院。2012年には24時間救急受け入れ体制を持つ「脳卒中センター」を立ち上げるなど、脳卒中・がん・心臓病という三大疾病を中心とした診療に移行した。同時期に脳の血管にできた瘤(こぶ)「脳動脈瘤」手術の権威として知られている上山博康医師を招き、質の高い地域医療の提供を目指している。1973年から40余年、脳神経外科の最前線で人の命と向き合ってきた匠の手を持つ上山先生の視点で「食」について伺った。  

人間の体は食べ物からできている

先生は「食」について、どうお考えですか?

人間の体と生命維持はすべて食物で成り立っています。現代ではオリーブオイルやヨーグルトをはじめ体にいいといわれる食材が何度もブームになりますが、江戸時代の庶民はヨーグルトの存在は知りませんでした。それを補っていたのが漬物文化です。昔の人は特に何も考えずに和食を食べてきましたが、和食の食材の組み合わせは素晴らしいと思います。今や日本食は世界に誇る健康食として認知されている日本食を見直し、正しい知識を持って普段の生活に取り入れていくべきですね。   e71993933f8a09c159f31e955a8198db_s

「食」について考えるきっかけになったことはありましたか?

ぼくは個人的に納豆への思い入れが深くてね。30歳ぐらいのときに、弟と一緒に北海道南部にある島牧村へアメマスを釣りに行って、そこで食べたものが悪かったのか2人して肝炎になってしまいました。黄疸が出て、弟は3ケ月入院しました。ぼくは納豆だけ食べて仕事しながら直した経験があります。 そのときに初めて食のことを考えました。肝臓がやられていて、糖質は体の負担になるため白米を選択肢から外しました。食べなければ体が持たないので、カロリーが高く、タンパク質を持つ食品が必要でした。そして行きついたのが納豆でした。

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消化吸収の勘違い・ダイエットの勘違い

その頃、脳外科の世界では、口から食事を摂れない患者さんに胃にチューブを入れて流動食で栄養補給する「経管栄養法 が始まっていました。しかし、患者さんのほとんどが下痢症状を起こしていました。経管栄養は欧米から入ってきた方法で、栄養分は乳糖が中心です。欧米の人は牛に頼って栄養分をとるしかなかったので、何百年もかけて進化し、肉や牛乳の消化酵素を持つようになった。だから牛乳を飲んでも何ともないんですよ。でも日本人は違う。日本人の約85%は乳糖を分解する酵素が少なく消化できない人が多い。 牛乳にはカルシウムがたくさん入っているけれど、多く飲みすぎると日本人は下痢してしまうことが多いのはそういう理由です。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防のために牛乳を飲んで、余計に骨がもろくなった人もいます。人間の消化吸収能力には限りがあるんですよ。例えばダイエットをしている女性に多いのですが、生野菜信仰も勘違いのひとつです。

ダイエットに生野菜は有効だと思ってましたが… img07

人間は生野菜に含まれている食物繊維(セルロース)は消化吸収できません。ぼくは、野菜サラダとヨーグルトを食べている女性を見ると「便秘症なんだ」と思っています。栄養を吸収しないまま素通りするだけなので栄養的に何も良くないけれど、便は柔らかくなります。どんな栄養素が入っているかということと、それが腸でどのように働くかといったところまで理解して食べなければいけません。      


 腸の吸収の仕組みを教えていただいてもいいですか

腸管の消化機能は、人間が作り出す消化酵素の働きが半分、残り半分は腸内細菌、いわゆるバクテリアの働きで成り立っています。バクテリアは消化酵素で消化できない栄養分を分解したり、ビタミンやタンパク質を合成したり、腸管免疫を高めたりしています。 腸内細菌には、善玉菌、悪玉菌、日和見菌(ひよりみきん)の3種類があり、そのほとんどが日和見菌です。善玉菌が優勢になると日和見菌は善玉菌を応援し、悪玉菌が多くなるとそちらを応援します。元気のいい善玉菌が腸に入ってくると腸内の餌を食べてしまうため悪玉菌が繁殖できなくなります。 善玉菌の代表は乳酸菌ですね。納豆菌も善玉菌のひとつです。乳酸菌は胃酸でそのほとんどが死んでしまうため生きた状態では腸にたどり着けません。一方、納豆の乳酸菌はネバネバに守られて腸まで届くので有効度が高い。ネバネバしている食品が体にいいと言われているゆえんです。 日本人は乳糖を吸収できないと説明しましたが、細菌の力を借りて乳酸菌を取り入れやすくしている食品があります。それはチーズです。チーズは加工の過程で下痢の原因になる成分を取り除いているため、乳酸菌を有効に吸収しやすい食品です。 5f640f248a92d079524cbdeb8cae7ef4_s

納豆はダイエット食品として有効ですか

西部劇を見ていると旅しているときは煮豆(大豆)を食べています。肉の代わりに大豆を食べているのですから、カロリーが高いわけです。ぼくが肝炎になったときに納豆を食べたのは、糖質に頼らないで栄養を摂ることが目的でしたから。トマトダイエットも流行りましたが、トマトは糖質を多く含んでいますから量を摂り過ぎてはダイエットになりません。

私たちが誤解している成分が他にもありそうですね img08

では、コレステロールのことを話しましょう。脳の神経細胞は、細胞同士をつなぐアメーバ状の樹状突起を伸ばしてニューロンという神経回路を作ります。回路がつながると脳が活発に働くようになります。その回路と回路のつなぎ目のことをシナプスといいます。このシナプスをつなぐときに最も大切になるのがコレステロールです。コレステロールは、低いほど良いと思われがちですが低すぎてもいけません。 血管の壁間をチューブのように守っているのもコレステロールです。ビニールホースに例えると、ビニールが柔らかければ多少曲がっても折れることはありませんが、硬ければ裂けやすくなりますよね。それと同じようにコレステロールが少なくなるとパサパサした血管となり、血圧が上がった時にパキンと割れやすくなります。うちの病院でも最近30代女性の脳出血患者が増えてきました。
 えっ、30代の女性が脳出血ですか?脂分は控えていそうですが…

それも勘違いのひとつです。コレステロールは脂分だけから作られると思っていませんか。体内で作られるコレステロールの原材料は糖質です。糖質を材料に肝臓でコレステロールが作られるんです。脳にとって最も必要なグルコース(ブドウ糖)も糖質です。しかし、脳ではグルコースを蓄えられないため、常に肝臓から供給してもらう必要があります。糖が足りないと低血糖になり脳が働きません。ダイエットで糖質を制限すると脳が働かなくなり、コレステロール不足で血管がもろくなり、脳にも悪影響を引き起こしかねません。 はい、コレステロールが不足するとホルモンも作られません。癌を抑制する免疫機能も低下します。低コレステロール血症によるうつ病の発症も報告されています。総コレステロールの数値に踊らされて、食べ物を制限したり、体にいいといわれる健康食品を買いに走るよりも、日本食に着目して効率よく栄養を吸収できる知識を身に付けることをお勧めします。